耐座屈性能に優れたパイプライン用鋼管の開発
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1 開発の背景と内容 地震凍土地帯に敷設されるパイプラインでは、地盤変動による座屈や破壊が懸念されており、鋼管の耐座屈性能の向上が、パイプラインの安全性確保のための課題となる。従来のパイプライン設計では、座屈防止のために管厚を厚くする方法が採用されてきた。この場合、より強度の高い鋼管に置き換えて、鋼管薄肉化によるパイプラインのコスト削減は困難であった。本研究開発では、最新の厚板加工熱処理技術を駆使し、従来の鋼管に比べ優れた耐座屈性能が得られる鋼管を開発した。 2 特徴と成果 鋼管の座屈性能が鋼材の材質(加工硬化特性:n値)の影響を受けることをいち早く見出し、鋼板製造工程での加工熱処理技術を駆使した複相組織制御(軟質相と硬質相からなる組織)により鋼管の耐座屈性能を向上させる技術を開発した。最適な鋼管材質を得るために、ミクロ組織を再現した高精度の解析モデルによりその変形挙動を予測することで複相組織の最適化を行った。また、オンライン熱処理を用い硬質相としてMA(島状マルテンサイト)を分散生成させる独創的な組織制御技術により、高強度でかつ加熱を受けても材質変化がきわめて小さな鋼管の開発が可能になった。海外のパイプラインでは防食用の高温コーティングが主流であり本技術が不可欠と言える。その結果、X60(降伏強度412MPa以上)からX80(同551MPa以上)の耐座屈性に優れた鋼管が開発され、従来は不可能だった管厚の低減によるパイプラインのコストダウンと安全性の向上が同時に可能となった。開発鋼管はカナダや中国などの地震凍土地帯を通るパイプラインに実適用されており、世界のエネルギー安定供給に大きく貢献している。 3 将来展望 複相組織制御により製造した高変形鋼管はX80まですでに量産化され、地震凍土地帯のパイプラインに適用されている。同様の組織設計思想により、X100(降伏強度690MPa以上)や厚肉のX70(同483MPa以上)等まで開発されサンプル製造まで終了している。天然ガスの需要はさらに高まってくることが予想されており、大量輸送のためにパイプラインに使用する鋼管は今後、高強度化、厚肉化が進んでくるものと予想される。本開発技術により、強度、厚肉、コーティングなど、需要家の細かなニーズに対応することが可能であり、今後のさらなる適用拡大が期待される。 |
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