高集積強誘電体メモリ(FRAM)の量産技術開発

1 開発の背景と内容
 強誘電体メモリ(FRAM)は強誘電体の残留分極方向によってビット情報を蓄える不揮発性メモリである。今日広く用いられているフラッシュ・メモリなど他の不揮発性メモリと比較して、低消費電力であり高速・高繰返し書換え性能に優れている。現在広く使われている銀行・クレジットカード(スマートカード)やOA機器で使用される認証デバイス、電子タグは認証と記録の更新をオンサイト(現場)で行う必要があるため、短時間のうちに通信端末と多くのデータをやりとりし、これを記憶しておかなければならない。FRAMは現在この目的に最も適したものであり、今日認証を必要とするカードなどに多く組み込まれ実用に供されている。
 


2 特徴と成果
 強誘電体を半導体デバイスに応用したFRAMの原理は古くから提案され、多くの企業が実用化に挑んでいた。しかし、半導体製造工程において強誘電体が劣化してしまうため、情報を長期間保持できず、そしてこの情報を安定に読み出し書き換えできるFRAMを製造する事ができなかったため、殆ど失敗に終わった。そのような中にあって富士通セミコンダクター(株)では、強誘電体部分を作り付けた素子(強誘電体キャパシタ)が、その後の通常の半導体回路製造工程を経ても強誘電性能が劣化しない保護プロセスを開発した。また、高集積化にともなうセルの微細化によって減少する分極電荷を効率よく読み出す回路など周辺技術を確立することによって、信頼性の高いFRAMを作り出す事に成功した。強誘電体の性能劣化を防ぐ方法は、後プロセスの影響を遮断して強誘電体の分極量を最大に保ちつつ、疲労などの強誘電体特有の劣化を抑制するための複数の工程からなり、容易に模倣されない技術が積み上げられている。これによって現在年間約3億個のチップを製造し、世界市場をほぼ独占している。  


3 将来展望
  現在、磁化の方向に情報を載せるMRAMや電気抵抗値の大小で情報を記憶するReRAMなど次世代の不揮発性メモリが盛んに研究され、その一部は上市されるまでに至っている。しかし消費電力、書き込み速度、書換え回数の三点を総合したとき、現在のスマートカードや認証デバイス、電子タグ、スマートメータなどの応用においてFRAMを代替するものは見当たらない。実際、航空機部品の履歴管理に用いられている大容量電子タグやCO2削減に効果が大きいスマートグリッド用のスマートメータは、FRAMの独占的な応用分野である。さらに、強い放射線や強い磁場に対する高い耐性も有し、過酷な環境下でも信頼性の高い記録保持性能を保障できる。今後、ヒューマンセントリック(人間中心的)な社会インフラを支えるクラウドなど情報インフラの拡がりに応じて、「低消費電力」「認証」「セキュリティ」をキーワードとする管理・制御面での応用が期待される。