衝突安全性を確保する船体用高延性厚鋼板製造技術の開発

1 開発の背景と内容
 船舶の衝突事故は、荷油漏れなどを起こし、深刻な環境汚染を招く。特に巨大 タンカーの事故はその影響は極めて大きい。これまで船舶の衝突安全性を確保 するために、船側構造の二重化が規則化されてきたが、これに加えて、外殻鋼 板の延性を大きくすれば、同じ衝突エネルギーを受けても、き裂が生じず、浸 水や沈没の危険性を低減し、結果的に乗員を保護し、油濁も防止することがで きる。また、各国の港湾では衝突防止のため、航行速度を最大12ノットに制限 している。従来の船体用厚鋼板の1.5倊以上の伸びを確保することができれば 航行速度12ノットでもこの目標を達成できることを見出し、船体用高延性厚鋼 板の開発と製造技術の確立を目指した。
 


2 特徴と成果
 本技術開発の特徴は、高延性鋼板を大量生産するシステムを開発したことであ る。まず、第一に延性阻害要因である硫化物、介在物の生成を極限まで低減さ せることを目指した。製鋼プロセスでは、開発した高効率製鋼プロセス(2014 年大河内賞受賞業績)に加えて、二次精錬で脱硫を効率よく行う独自技術を適 用し、目標を達成している。 第二に、延性に有効な金属組織を極限まで追求することを目指した。圧延時の 熱履歴の精密制御により、微細な金属組織を実現することが極めて重要な効果 を持つことを冶金学的に解明した。さらに、加速冷却時に、従来の水冷技術で は実現が困難なため、スプレーノズルの配置設計、鋼板への水流の衝突速度の 管理を抜本的に改善して、鋼板の精密な温度管理を圧延工程全般で実現するこ とで、鋼板全体に冶金学的効果を達成している。現在、操業は安定して高い生 産性を維持できている。  


3 将来展望
  今後ますます、船舶の大型化が進み、衝突安全性のみならず、座礁に対する安 全性の確保も喫緊の課題であり、高延性厚鋼板の需要拡大が見込まれる。衝突 安全性能の高い船舶への税制施策も施行され、保険料率低減などのビジネスモ デルも検討されており、市場の拡大が見込まれる。 生産技術は確立しており、市場拡大に伴い、生産量もさらに増えていくと予想 される。